2023年2月2日「政民東京會議」講師/河野 克俊 前自衛隊統合幕僚長

2023年02月02日
  

「ウクライナ戦争と日本の安全保障」

 

 ウクライナ戦争は「ロシア人、ウクライナ人、ベラルーシ人は三位一体」とするプーチンの世界観が原因となって起こった戦争だ。

 ウクライナが親欧米派の政権となり、EUに加盟申請を行い、そのうえNATOにまで加盟となれば、ロシアとして見過ごすわけにはいかない。ロシアがいまだにウクライナ戦争を「特別軍事作戦」と称するのは、あくまで国内問題と捉えているためだ。ゆえに停戦の見通しが立たないが、昨年末、プーチンが国内向けの記者会見で「戦争を終わらせる」と初めて“戦争”と言及したことに注目したい。今回のロシアの失敗の本質は、目的が不明確で根拠ない楽観主義にあった。

 バイデン大統領は当初からウクライナ戦争に対し、ロシアへの経済制裁について言及し、ウクライナへの軍事支援は行うものの、介入はしないことを明言。ウクライナ戦争で、世界は核戦争を恐れて軍事的に行動しない米国を始めて目の当たりにした。

 日本は世界唯一の被爆国として非核三原則を貫いているが、世界に核がある以上、このまま米国の傘の下にいるだけでよいのか。軍事的に圧倒的に強い米国は過去のもので、韓国では朝鮮半島有事に米が核抑止力を行使しないとの懐疑的な見方が広がっている。わが国もこうした世界事情を鑑み、改めて非核三原則の議論を行うべきだ。

 台湾問題は、毛沢東が建国宣言を行った1949年当時、中国に海軍がなく、鄧小平を追い詰められなかったことが発端だ。鄧小平時代までは海洋に関心がなく、旧ソ連と戦うことが中国の最優先課題であった。経済発展すれば海洋進出は必然であり、いまや西太平洋地域での中国の軍事力は圧倒的なものとなった。第一列島線に日米部隊を介入させないのが中国の戦略で、それには香港、台湾、尖閣が障害となる。香港はすでに陥落し、台湾は米中対決の通過点に過ぎず、悠長な話ではない。中国が台湾へ軍事侵攻するのは2024〰27年になるのではないか。台湾の総統選挙、米の大統領選がある2024年はサイバー攻撃など中国の大きな動きがあるだろう。

 河野氏は中国を「戦争よりも内政の失敗による犠牲者が多い稀有な国」とし、各列島線について詳細に解説。佐藤栄作が首相時代に核武装を考えていた現実的な一面にも言及した。